大審問官 1)

2022年7月30日

先日の参議院選挙で、応援していた参政党からは神谷宗弊氏一人だけが当選しました。二人の当選は堅い、三人目も何とかと党本部は思っていたようですが、投票二日前にあの事件が起こってしまい、最後は失速してしまいました。とても残念ですが、次は来年春にあると予想される統一地方選挙です。できるだけ多くの議席を取りたいものです。

いきなりですが、全く趣の異なる本題に入ります。ロシアの文豪ドストエフスキー(1821-1881)の最晩年の作品“カラマーゾフの兄弟”について少しお話したいと思います。ハルキスト(村上春樹のファン)の方たちは、村上春樹が小説のさびの部分で、必ず「カラマーゾフの3兄弟の名前を言えるのは僕ぐらいだ」と主人公に言わせているので、読んだことはなくても、“カラマーゾフの兄弟”という本の名前ぐらいはご存知だと思います。

私は二十歳ぐらいのときにこの本を読んで大変な衝撃と感銘を受けました。たくさんの文芸評論家の方たちが論評されているこの本を、私が改めて解説する必要は全くないのですが、最近読み直して、ロシアという国柄やプロパガンダについて思い直すことが多くありました。今回はこの本の中でも特に有名な“大審問官”の章について述べます。新潮社発刊の「カラマーゾフの兄弟」は上中下の3冊に分かれています。“大審問官”は上巻の最後の章になります。

「カラマーゾフの兄弟」の主人公は、長兄が破天荒ではあるが正義漢であるドミートリイ、次男は聡明で冷徹なイワン、三男は純真で敬虔なロシア正教会の見習僧であるアリョーシャの三兄弟です。

まず、簡単にこの章のストーリーを紹介します。

この小説が書かれた1880年頃、ロシアはトルコと戦争を終えたばかりでした。当時の残虐で人を人とも思わない事件が野放図に行われていました。

どんなひどいことが為されているか、たまたま居酒屋でアリョーシャと二人きりになったイワンは、被害者が子供である場合に限って紹介します。

露土戦争時トルコ兵がロシア人の赤子をあやし、その赤子がやっと笑い、拳銃を無邪気に触ろうしたところで、母親が見ている前で拳銃の引き金を引いて赤子の頭を吹っ飛ばしたそうです。なんでこんなことをしたのかというと、単に楽しむためだけだったそうです。

勿論、ロシア人も負けていません。4歳ぐらいの女の子が母親にうんちを知らせず、漏らしてしまったので、怒った母親が漏らしたうんちをその女の子の顔に塗りたくり、真冬の暖房のない離れのトイレに一晩中放置したそうです。女の子は何が一体起こったのか分からず、泣きながらただ“神たま”に祈ったそうです。

19世紀の初頭、まだロシアに農奴制があったころ、広大な領地と2000人の農奴を持つ大地主がいて、趣味が猟犬を使ったハンティングでした。ある日、召使いの8歳ぐらいの息子が何となく投げた石で、お気に入りの猟犬が足に怪我をしたのを知り、見せしめのため、家族の前で数100匹の猟犬たちにその息子を八つ裂きにさせたそうです。

イワンはキリストによる“永遠の調和”を信じています。永遠の調和が訪れれば、人々は仲良く平和に暮らせると信じています。そして永遠の調和の実現のためには、人は苦しみ、学ぶ必要があることを受け入れています。でも、生まれて時間の経っていない、汚れのない子供達がその“永遠の調和”のために苦しまないといけない理由は、どんなに考えても分からないと、気も狂わんばかりに苦悩します。「何故、こんな苦しみが必要なんだ?!教えてくれアリョーシャ。こんな苦しみはあまりに高い代償すぎるよ。永遠の調和なんてくそ食らえだ!」と叫び、正義を求める彼の声は若く、あまりに純粋です。イワンは学問があり、いつも冷静な物言いしかしません。彼はどれほど考え抜き、どんなに苦しんだのでしょう。そしてやっと思いの丈を弟に吐露したのですが、解決は遠く、苦悩は深まります。

ロシア人は残虐なことをします。ヨーロッパ内で領地を奪い合った戦争もひどいですし、第2次世界大戦において、日本が降伏及び武装解除してから彼らが行った北方領土での多くの民間日本人殺害、満州にいた日本兵のシベリア抑留など、とても許せることではありません。しかし、そんな自分たちの“鬼”を知りつつ、自分の胸を叩きながら苦しんでいるのがロシア人だと思っています。

それもロシア人が人間だと見なす相手にだけかもしれませんが。。。でも、彼らは野蛮で神をも畏れぬ蛮行をしながらも、神様が見ておられることを知り、代償をいつか払わされることを分かっているようなところがあります。何故だか私にはそう思えて仕方ありません。証拠を出せと言われてもドストエフスキーとトルストイの小説しか提示できないのですが。。。

ウクライナ紛争が起こってから、ロシアのことを悪く言わなければならない風潮がでてきました。このような善悪二元論は思考停止をまねき、とても危険です。彼らの歴史や民族性を深く知った上で、隣国と付き合いをする必要があります。

小説では、この後イワンが自分で考えた叙事詩“大審問官”を弟のアリョーシャに語り聞かせます。これについては、次回お伝えします。

あみんこと網野忠文